二つの角を頭に生やした何とも可愛らしい少女が、瓢箪を片手に、体を前後左右にふらふらと揺らしながら歩く。
「いぃ〜ちまぁ〜んねぇ〜んとぉ〜にせぇ〜んねぇ〜んまぁ〜えかぁ〜らぁ〜あぁ〜っいっしってっるぅ〜♪」
「…(突っ込んだら負け?)」
「れ〜いむとであぁ〜ったぁ〜そのひぃ〜からぁ〜わたしぃ〜のぉ〜じごくにぃ〜おんがぁ〜くはぁたえなぁ〜いぃ〜♪」
「………………(突っ込んだら負け…よね?)」
音をかなり外しながらふらふらとこちらに近づいてくる翠香に一発蹴りでも入れてやりたかったが、翠香は酔っていると妙に肉弾戦が強くなる傾向がある。…酔拳という奴だろうか。確か格闘技にかなり精進していないと扱うのは相当難しいと聞いたことがある。何せ精神や五感がまともに働いていない状況で相手を攻撃するのだから当然と言えば当然ということになる。…が、それが相手に対する最大の攻撃となり、防御となるわけだが。
五感がまともに働かない=相手もこちらの五感を察知出来ないのだから当然避けるのも難しい。…ま、あくまで個人的な解釈だけど。
「まっだぁ〜いわないでぇ〜じゅぅもんめいたぁ〜そぉのことばぁ〜♪あぁいぃなんてぇ〜はぁねのようにかぁるぃ〜♪」
「…(突っ込んだら負け、突っ込んだら負け…。)」
既に霊夢の怒りの沸騰点は限界に達しているが、さすが普段あんな性格をしているだけあって、他人を無視したり自分の事だけを考えたりするのが得意なだけある。見事に耐えていた。…震えのあまり湯呑みからお茶が微かにこぼれてしまっているが。
「ごまえぇ〜ごまえぇ〜♪はりきぃってぇ〜いぃ〜くわぁ〜よぉ〜♪」
「…きゃぁっ!?」
が、いくら酔っていて、しかも幻想郷には無いはずの名曲の数々を超音を外しながらふらふら歩いている翠香でも、ちゃんと霊夢の居る位置くらいは確認出来るわけで…つまりその朧気な霊夢の姿に徐々に近づき、がばぁっ!!という効果音と共に霊夢に抱きついたのである。
「ちょ、ちょっとやめなさいよっ!?」
「おぉさぁいぃせぇん〜ちょぉぅだぁいぃよぉ〜♪…ぐびっぐびっぐびっ…ぷっはぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「…ぶちっ!」
ゴスゴスゴスゴスッ!バキッ!バコーン!ズドドドドドドドドドドドドドーンッ!
そしてついに少女はキレた。まず両手で連続パンチを入れ、その後にバック転+蹴りという何とも彼女らしくない技で翠香を蹴り上げた後、弾幕を翠香に数百発程打ち込む。
「はー…はー…はー…嘘っ!?」
「はぁ〜っせぇんねぇんすぎたぁ〜こぉろからぁ〜もぉとぉ〜こぉ〜いしくぅ〜なぁ〜たぁ〜♪」
さすが翠香。霊夢のほぼ全力のコンボを食らったにも関わらず、先ほどと殆ど変わらない状態で音を外しまくりながら歌っていた。…しかも傷一つ付いていない。
恐らく、酔拳の最大の特徴である、酔っていればいるほど強力なものになる…という超特権パワーが炸裂したのだろう。最初の連続パンチは見事に防ぎ、蹴りは防いだが打ち上げられる。が、弾幕は全て拳で打ち砕いた…というわけだ。
「…鬼ね。」
「れぇ〜いぃむぅ〜♪」
「…取りあえず、その酒いつになったら無くなるのよ?」
「ふぇ?」
前々から思っていた疑問をぶつけた瞬間、翠香の表情は急に正常に戻り、ちょっと呆けたような声ですっとぼける。
「だから…いつになったら酒が無くなるかって聞いてんの。」
「…知らないよ、そんなの。」
「…?」
「…こいつは、私が物心付いた時からあったんだ。」
急に真面目な声になったことに少々戸惑いながらも、霊夢は翠香の言葉を一字一句聞き逃さないようにする。
「…そして、こいつだけはいつまでたっても私と一緒に居てくれるし、こいつを持ってるだけで楽しい気分になれる。…唯一私を孤独から救ってくれる奴なんだ…。」
「…。」
そう、考えれば簡単な話だ。物には何事も理由というものがある。だから翠香が酒を飲み続けて酔うのだって理由がある。酒を飲んでいるから…と言ってしまえばそこまでだが、もっと深く考えればそういう結果にたどり着く者も居るかも知れない。
「…ほんと、あんたは不器用というか何というか…。」
「んぁ〜?…わぷっ!?」
「…ま、後数十年は一緒に居てやるわよ。」
「……ありがと。」
「はいはい、だから酒はもう飲まないでね。臭いから。」
「それはやだ。」
「…………。」
あるいはそんな話すら平和な話。
後書きという言い訳。
自己設定。しかも翠香の持ってるあれって瓢箪だったか?…まぁいいや、書いてて楽しかったから。
…あ、自己設定に関する文句は受け付けませんよ?それとこの物語はお酒の匂いを嗅いでいたら思いついた物です…っていうか、真面目な翠香ってどうなのよ。
「ねぇ、霊夢。今日はおいしい紅茶があるのよ、是非とも紅魔館に来てくれないかしら?」
「なぁなぁ霊夢、やっと新しい魔法が完成したんだぜ、是非私ん家に来てくれよ。」
「今日は何だか溜まっちゃって…ということで付き合いなさい。」
「れ〜いむ〜、私のお酒のも〜よ〜♪」
「……………………。」
天気は霧が掛かるほどの曇り。もちろんレミリアが前回の様に魔法で霧を張ったわけではなく、ただ悪天候というだけ。そんな天気の中、博麗神社はかなり明るい光を発していた。
理由は彼女らにある。
まずはレミリア。彼女は悪魔の王、永遠に幼き紅い月等という異名を持つ、吸血鬼の中でも特に強力な力を持つ妖怪でありながら、霊夢にぞっこんの、外見は女の子、中身はお嬢様というなかなかの変わり者。
次に魔理沙。彼女は霊夢と同じ人間であるが、魅魔という魔法使いの教えと、魔理沙の凄まじい努力により、魔法使いになった。しかし、いくら魔法使いという職業を持っていても人間という事に変わりはなく、同じ女の子にだって恋をすることはあるだろう。彼女もまた霊夢に惹かれる者の一人だった。
そして次に紫、通称ゆかりん。彼女は霊夢に惚れ込んでいる…というよりも玩具だとか、いい遊び相手みたいな感じなのだが…稀に他には見せない可愛らしい表情を霊夢に見せることがあることから、恐らく好意を抱いているのだろう。
さらに、瓢箪を持ち、今も尚ぐびぐびとお酒を飲み続け、頭に二本の角を生やした少女が、翠香。彼女もまた、霊夢に一人ではないのだと、霊夢や魔理沙が居るのだという事を教えてくれた霊夢に好意を持っている。
…まぁ、大方騒いでいるのはこの4人であり、霊夢はこめかみをぴくぴくと動かしながら湯呑みに入ったお茶を啜っている。しかも4人全員の話をスルーしている。…それはこの後どういう展開になるか分かっているからである。
「「「「何よ、霊夢は私と行くのよ(んだぜ)」」」」
「…はぁ〜。」
そう、しばらくは4人が霊夢に詰め寄るという状態が続くが、しばらく経った後は誰が霊夢と一緒に自分と楽しむか…それを賭けての弾幕ごっこが始まる可能性が非常に高い。そして今のやり取りはそれの前兆である。
「「「「こうなったら、弾幕ごっこで勝負よ!(だぜ!)」」」」
「………………。」
そして彼女らは一旦博麗神社を離れ、三つ巴ならぬ、四つ巴が始まるのである。
「…寝ようかなぁ…。」
そう呟いて霊夢は軽く伸びをし、湯呑みを台所に片づけて寝室へ入り、4人の弾幕ごっこによる爆発音など全く気にしていないという様子で眠ってしまった。
「「「「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」」」」
4人共何か限界。そして導き出された答えは…
「「「「こうなったら霊夢に決めてもらうしかないわね(ないぜ)!」」」」
それが約2時間に及ぶ、長期戦が終わった直後の結果である。…最初からそうすればいいじゃんとかいう突っ込みはなしで。
「「「「霊夢っ……!!!!」」」」
「すぅ〜…すぅ〜…すぅ〜…。」
「…こ、これは…」
「頂くしか…」
「無い」
「わね。」
「「「「いっただきま〜〜〜〜っすっ!!!!!」」」」
そして幻想境には、数時間もの間、五つの媚声が木霊したのだという。
咲夜「…お嬢様…。」
フランドール「…お姉さま…。」
パチュリー「…魔理沙…。」
アリス「…魔理沙…。」
それすらも恐らく平和な一日。
後書きみたいなもの。
平和っちゃ平和だわな。
平和だねぇ(一人で会話すんなよ・・・